◇ 夜熱 ◇



 うぉぉぉぉん、うぉぉぉぉぉん。
 低く微かに聞こえてくるその音は、神経塔を通り抜けていく風の音だとか、世界が哭(な)いている音だとか、色々と言われてはいるけれど。誰一人として、その正体を知ってる人はいない。
 うぉぉぉぉん、うぉぉぉぉぉん。
 誰かの血で染められた空の下に在る、この歪んでしまった世界にも、やっぱり夜は訪れて。静まり返った世界を微かに震わせるみたいに、低く、低く、音が響く。
 うぉぉぉぉん、うぉぉぉぉぉん。
 寝台の中でその音を、もしかしたら声を聞きながら、オレは右手で左胸の辺りをそっと押さえる。以前はなかった心臓が、その下にはきちんと存在している筈。どくん、どくん、と規則正しく、オレの体内に血液を送り込んでいてくれる筈だ。オレの中の心臓が、ちゃんと動いていてくれてるのなら。
 でも。最近オレは少し不安だ。
 オレの心臓は、本当にちゃんと正常に動いてるんだろうか。そんな事を考えずにはいられない。勿論、取り越し苦労って可能性がないわけじゃないけれど、でも…。そんな風に思わず不安になるぐらい、オレの心臓は、時々ふとおかしくなる。
 きゅっと痛みを訴えるように縮こまってみたり、驚くぐらい早く鼓動を打ってみたりするようになったオレの中の心臓に、オレは戸惑わずにはいられない。この一連の心臓の動きは、オレの体に悪影響を与えたりはしないんだろうか。オレは心臓を持つようになってまだそんなに時間が経っていないから、よく判らない。
 まだオレが弟と繋がっていた頃、周囲の大人達はよく「心臓が縮む」って言っていたけど、それは不安な時とか、何かに驚いた時の事だったと思う。でもオレの心臓がきゅっと縮んで痛みを訴えるのは、そのどちらでもない。
 やっぱり、オレの体はどこかがおかしいのかな。思いながら、俺はそっと寝返りを打った。
 途端に目に飛び込んできたのは、白い白い、月みたいに綺麗な顔。それを見るなりいつものように、オレの心臓がきゅ、と縮んだ。
 その白くて綺麗な顔は、上級天使の寝顔だった。どうしてこんなに間近に上級の寝顔があるのかと言うと、それはオレがわがままを言って一緒に寝てもらってるからだ。上級は困った顔をしてたけど、オレが一人で寝るのが不安だって訴えたら、困り顔のままだったけれども、一緒に寝てくれるようになった。
 上級は優しい。でも、多分そう言ったら、本人は赤くなって否定すると思うけど。
 そんな事を考えながら、オレは心臓の上を掌で撫でながら、じっと闇の中に仄白(ほのじろ)く浮かび上がった上級の顔を眺めた。
 月みたいに白い顔は、上質の陶器みたいに白くて滑らかで、絹のようにさらさらした手触り良い月光色の髪に縁取られてる。髪の毛と同じ色した長い睫毛(まつげ)に守られるみたいに、そっと閉ざされた瞼(まぶた)の内側で眠ってる赫(あか)い目が、オレはとても好きだ。本人は嫌いみたいだけど、とても綺麗だと思うから。
 …そんな風に観察してるうちに、縮こまってた心臓はとくとくと血液を体中に送り始めた。通常通りに戻った、って言いたいけど、全然通常通りじゃない。いつもよりも早めの鼓動を刻んでる、オレの心臓。そのせいか、頬の辺りがかあっと熱くなってくる。冷まそうとするみたいに左手で頬をこするけど、頬だけじゃなくて掌もどんどん熱くなってくるから、少しも効果なんてない。
 どくどくと心臓が動くたびに、熱くなっていく体。変化はそれだけじゃない。寒いわけでもないのに、何だか背筋がざわざわする。
 熱でもあるのかな。風邪を引いて寝込んだりすると、体は熱くなるのに寒気を覚えて、背筋がぞくぞくする。その感覚に少し似てる気がするけど、でも、やっぱり何かが違う。寒気とかじゃなくて、もっとこう…説明のしようがない感じ。
 熱を冷ますのを諦めて、左手を元通りに敷布の上に戻してから。オレは一つ小さく息を吐き出した。その息までもが熱いような気がして仕方ない。
「……上級」
 自分の体なのに、自分でよく判らない。その事に不安になって、思わず目の前で眠ってる、月みたいに綺麗な上級の事を呼ぶ。ぴくん、と白い瞼が小さく震えるのを見て、腰骨の辺りがざわりとした。
「…上級」
 もう一度呼んでみる。ぴくん、と一度震えた後で、ゆらりと長い睫毛が揺れて、綺麗な赫がうっすら覗く。
「上級」
 ぱち、ぱち、ぱち。緩慢に瞬いた後、まだ少し焦点の合ってない赫い目がじっとオレに注がれた。まるで、目の前にあるのは一体何だったろうって思い出そうとしてるみたい。いつもより少し子供っぽい感じの表情に、心臓がどくん、と音を立てる。
「……どうした?」
 寝起きのせいで少し掠れてる上級の声。
「眠れないのか…?」
 囁くように言いながら、上級の白い指が伸びてきて、そっと撫でるみたいにオレの頬に触れる。その途端、体が勝手にびくんと震えた。
「……13号?」
 オレの反応に、驚いたみたいに見開かれた赫い目が、少しして悲しそうな色を浮かべるのが判る。オレの反応に上級は、触れる事を拒否されたとでも思ったんだろう。少し慌てたみたいに引っ込められていく白い指先に、オレは胸が痛くなって、咄嗟(とっさ)にその手を掴んだ。
「上級」
 別に嫌じゃない。上級に触れられるのは嫌いじゃない、むしろ好きだけど、だけど、何か、何だか、勝手に。理由も判らないのに、勝手に震える。
「…13号?」
 上級の薄い唇が、オレの名前を呼んで微かに動く。それを見てると、鼓動が早くなって、熱が上がる。
「……オレ、おかしいんだ」
 そう言った時のオレの顔は、もしかしたら泣きそうだったのかもしれない。途端に上級の表情が、心配そうに翳(かげ)ったから。
「どうした? どこか痛いか?」
 言いながら、片腕を使って半身を起こした上級が、上からオレの顔を覗き込む。
「…何か、体熱い」
「顔が赤いな……熱でもあるのか?」
 言いながら、体を支えてるのとは反対の手が伸びてきて、オレの前髪を掻(か)きあげて額に触れる。いつもオレより冷たい上級の手が、いつも以上に冷たくて、オレはやっぱりびくりと震えた。その反応に、上級の手が躊躇するみたいに少し離れる。
「…触れられるのは嫌か?」
「……嫌じゃないよ。何か、体が勝手に反応するだけで」
 そう言うと、上級は変な顔をして、少し肩の辺りに力を入れた…ような気がした。………気のせいかな。
「…冷たいし」
 付け加えると、上級は肩の力を抜きながら「そうか」と小さく呟く。それから、もう一度額にその冷たい手を当ててくれた。
「……やはり、少し熱いな」
 そう言いながら、上級の手が額からこめかみ、頬の方に滑っていく。熱を確かめてるんだろうその動きに、背筋が何故かぞくぞくと震える。そのぞくぞくは、熱のせいじゃない。上級の手の動きにつられるみたいにぞくぞくするけど、だけど嫌なわけじゃない。むしろ、気持ち良くて、もっと触って欲しいような、そんな感じで…。
 …………違う。
 触って欲しいんじゃない。
 そうじゃ、なくて。
「……上級」
 呼ぶ声が、小さく震えた。息が熱いのが判る。不思議そうに心配そうに、小首を傾げてオレを覗き込む白い顔に、オレは手を伸ばしてそっと触れる。その冷たくて滑らかな感触に、ぞくりとした。
 この感覚が何なのかはやっぱり判んないけど、でも、一つ判った事がある。
「何だ?」
 囁くように返される声は少し優しい。聞いてると、どんなわがままでも言っていいよって、許されてる気がしてくる。少なくとも、言ってみるだけなら許されるんじゃないかなって思わせてくれる、声だから。だからオレは口を開く。
「上級に触りたい」
 今一番自分がしたいと思ってる事を、出来るだけそのまま口にする。
「…もう触っているだろう?」
 苦笑の気配と一緒に言われて、俺は首を横に振った。確かに今、オレは頬に触ってるけれど。でもこれだけじゃ足りない。
「もっと」
 もっと近くで、もっとたくさん。上級に触れたい。布越しなんかじゃなくて、直接肌に触りたい。熱を帯びた声でそう訴えると、上級はその赫い双眸を大きく見開いて硬直した。
「……駄目、かな?」
 風邪とかとは違う、得体の知れない熱に蝕(むしば)まれていく体を持て余しながら、覗き込む上級を見上げてオレは言う。
 上級が嫌だって言うなら、オレだって無理強いなんかしたくないから大人しく諦めるんだけど。ただその場合、よく判らないけど、多分オレはこの寝台から抜け出した方が良さそうだ。上級と一緒にいると、この得体の知れない熱は高まるばかりのような、そんな気がするから。
 ――上級は、沈黙している。狼狽(ろうばい)するみたいに少し視線を彷徨(さまよ)わせてるその姿に、胸がきゅうっと苦しくなった。上手く言えないけど多分、こういう気持ちを「切ない」って言うんじゃないかなって、思う。
「…えっと、御免」
 苦しさに耐え切れなくなって、小さい声で謝りながら、オレが寝台を抜け出そうとすると、その両肩をぐい、と白い両手に押さえつけられた。
「………後悔、しないな?」
 囁く声が震えてる。咄嗟に見上げた白い肌は、耳朶(じだ)までぽうっと赤く染まっていた。それがあんまり綺麗で、オレは思わず茫然とそれを見上げてしまう。
 見上げたまま、口を開く。
「しない、よ」
 きっぱり言い切ろうとしたオレの声も、小さく震えてしまった。それを聞いた上級は、ほんの少しだけ微笑んで。それからオレに覆い被さるようにして、その薄くて綺麗な唇で、オレの熱い唇を塞いだ。



 頭が、くらくらする。
 白い敷布の上に横たわった上級の衣服の釦(ボタン)を一つずつ外して左右に開くと、薄く紅を刷いたみたいな白い素肌が夜気に晒(さら)される。外気の冷たさのせいか、小さく肌が震えるのが判る。
 それを見てるだけで、また少しオレの熱が上がった気がした。
 大気は肌寒いぐらいなのに、掌も頬も、体中が熱くてたまらない。オレの上衣はまるでお手本だというように、上級の手で釦を外されてすっかり脱がされてしまっていたから、肌は外気に晒されてるっていうのに、熱が冷めていく気配もなくて、それどころかどんどん上がっていく気がして仕方がない。
 はぁ、と一つ息を吐き出しながら、上級の細い背中に両腕を回して、胸元に頬を押し付けるみたいにぎゅっと抱き締めると、上級の体と、その背中に生えた白い翼が小さく震えるのが判った。
 一瞬、抱き締められるのは嫌だったのかと思ったけど、すぐに上級の両腕がオレの背中に回されてぎゅっと抱き締めてくれたから、そうじゃないって判った。もしかしたら上級もさっきまでのオレと同じで、嫌なわけじゃないのに体が勝手に震えてるのかもしれない。
 …そうだったら、いいのにな。
 思いながら、胸元に頬をすり寄せる。肌と肌が触れ合って、心臓がどきどきする。いつもひんやりしてる上級の肌は、でも今はほんのりとあったかい。左胸に耳を押し当てると、早い鼓動を繰り返す心臓の音が伝わってきた。
「心臓、いつもよりも早い?」
 耳を当てたまま聞いてみると、上級は少し沈黙した後で、ぺちん、と掌でオレの頭を叩いた。…という事は、多分、いつもより早いんだと思う。
「オレのも、早いよ」
「…お前も?」
「うん。壊れちゃったんじゃないかって、不安になるぐらいどきどきする」
 オレの言葉を聞いて、上級はさっき頭を叩いたのと同じ手で、今度は優しく頭を撫でてくれた。
「…壊れてなどいない」
「……うん」
 ぎゅ、と抱き締める腕に力を込める。
「おかしくもない」
「……うん」
 オレの背中に回されてる上級の腕にも、ぎゅ、って更に力が込められる。それが嬉しくて、オレはもう一度頬をすり寄せた。だけど、それだけじゃ足りない気がして、もどかしい。
 もっと触りたい。もっと近付きたい。その為には、オレは一体どうすればいいんだろう。
「…お前がやりたいようにすればいい」
 そんなオレの疑問に答えるように呟かれた上級の言葉に、オレはうん、と頷いた。
 背中から腕を抜いて、それで体を支えながら半身を起こす。
「……でも」
「うん?」
「嫌だったら、言ってね」
 上級が嫌がる事をしたいわけじゃないんだから。そう言うと、上級はふわりと優しく微笑んで。
「…お前の好きに、して欲しいのだ」
 優しく囁かれたそんな言葉に、オレは何だか、どうしようもないぐらいにどきどきして、眩暈(めまい)すら感じてしまった。
 たまらなくなって、薄い綺麗な唇を塞ぐ。しばらくは触れ合わせるだけだったけれど、それだけじゃ足りなくて、もどかしくて、どうしていいか判らずにいると、上級の唇が少し開いて、そろりと顔を出した薄い舌が、オレの唇をそっと舐めた。途端に、背筋をぞくぞくと何かが這い上がっていく。同じように舌で上級の唇を舐めると、薄いけれども熱い舌で、口の中に導かれた。
 熱い口中。絡み付いてくる薄い舌が気持ち良くて、背筋が震える。何となく歯列の裏を舌で撫でると、ぴくん、と上級の体が震えた。上級も気持ち良いのかな、と思いながら何度も繰り返し繰り返し撫でるうちに、合わさった唇の合間から、小さく声が洩れ聞こえ始める。
「……っ、ふ……っ」
 オレの下で身じろぐ、細い体。
 もっとそうしていたくて、夢中で舌を絡め合って、顎の裏を舌先で辿る。時々何かを嚥下(えんか)するみたいに、こくりと上級の喉が動く。それを確かめたくて、喉元に掌を当てて、オレが繰り返しそこを撫で擦(さす)っていると、上級の両腕がオレの首に回されて、それからするり、と背骨に沿って撫で下ろされていく。
「……んっ」
 びくびくと勝手に体が震える。そうされるのは気持ちいいのに、何で体は勝手にこんな反応を返すんだろう。思いながら、オレは上級の両脇を包むように手を当てて、そっと撫で下ろそうとした。けれどすぐに指先に小さな突起がぶつかって、その動きは中断される。
 途端、上級の体がくうっと弓なりに反り返った。
「あぅっ」
 顎が跳ね上がった拍子に離れた唇から零(こぼ)れた甘い声に、背筋がじんと痺れた気がした。
 その声がもっと聞きたくて、最前無意識に触れた胸の先端を親指で弾くように触ると、びくん、という大きな反応と共に声が零れる。触れている肌の熱が上昇しているのは、多分気のせいじゃないと思う。
「…気持ち良いの?」
「……馬鹿っ、聞くな…っ」
 オレの問いに返されたのは、泣き出しそうになってるみたいに小さく震えてたけど、同時に甘くて熱くて、聞いていると背筋が震えるような声で。…少し、可愛い。
 少なくとも否定はされなかったんだから、別に嫌じゃないんだろうって思う事にして、オレは再度親指で突端を撫でながら、もう片方に唇を寄せてそっとそこを舐めてみた。
「あ、はっ」
 びくん、と肩が大きく跳ねる。恥ずかしいのか、片腕で顔を隠すようにしながら身じろぎして、声を洩らすのを見てると、一点に熱が集っていくような、そんな変な感じがする。
 もっと見たい。もっと聞きたい。上級が気持ち良いと、オレも何だか気持ち良いような気がする。ぞくぞくして体が熱くなる。
 だからもっと見せて、もっと聞かせて。
 思うままに指で舌で、上級に触れる。声が聞けると嬉しくて、何度もそこを辿ってみた。頭からくらくらする。上級の反応によって高められた熱が、出口を求めてた。けれど、その熱を解放する為にどうすればいいのかが判らなくて、もどかしくて――…
「……13、号」
 熱い息の下から、オレを呼ぶ声が聞こえる。
 目を向けると、白い顔を紅潮させて、薄く開いた唇からは荒い息を洩らしながら、上級が切なげにオレを見ていた。
 両手を広げて手招きされて、大人しくそれに従い、ぺったりと上に覆い被さるように抱き付くと、優しく抱き締められる。
「…ここから、どうして良いか判らない…か?」
 耳許で熱い声に囁かれて、オレは首をすくめながらも、大人しくこくんと頷いた。
 判らない。どうすれば、この体内にわだかまる熱を吐き出してしまえるんだろう?
「……私も、さして詳しくはないのだがな…」
 柔らかい苦笑の気配の後で、何かを躊躇(ちゅうちょ)するような沈黙があった。けどじきに、迷いを振り切ろうとするみたいに、上級は軽く頭を振る。
「…私の示すように、出来るな?」
 教え子を諭す教師みたいな言葉を熱い声で囁かれて、オレがもう一度、ただこくんと頷くと。
 上級はオレの左手首を掴んで口許まで寄せると、人差し指をそっと口に含んだ。


 腰を揺らすと、くちゅりと濡れた音と共に内側が絡み付いてくる。
 促がされるままに指で解(ほぐ)したその場所は、蕩(とろ)けるみたいに熱くて柔らかくて、気持ち良い。求めるままに激しくなりそうになる動きを、オレはそれでも、どうにか押し留める。
「……上級、辛い?」
 その細い体の内側にオレを飲み込んでいる上級は、苦しそうに眉を寄せながらも首を横に振る。
「……心配、するな」
 吐き出される細い声は、言葉とは裏腹に震えてて。オレをますます不安にさせた。
「でも……」
「…いいから、続けろ……っ」
 言葉と一緒に伸びてきた両腕が、オレの首に絡み付いて引き寄せる。逆らわずに大人しく従うと、熱い唇に唇を塞がれた。
「……っ、ふ……っ」
 離れる唇。熱い吐息。熱い声。肌も内側も熱くて、気持ち良くて。
 何も考えられなく、なる。
 促がすように腰を揺らされて、オレは歯止めを失ったみたいに、喉元に口付けながら動き始める。
 背中に立てられた硬い爪の感触。
 少しずつ甘さが混ざり始めた、耳元の熱い声。
 その声を聞きながら、細い体を抱き締めながら押し入って掻(か)き回す。オレ自身も上級の事も追い詰めていく。
「13号…っ」
 耳許で震える、切羽詰まった熱い声に呼ばれながら、オレは夜の闇に体内の熱を吐き出していた。





 小さく瞼が震えて、宝石みたいに赫い眸(め)が姿を現わすのを見て、オレは思わずほっとして笑った。
「上級? 大丈夫?」
 オレの声に、ぱち、ぱち、と数回緩慢に瞬いていたと思ったら。月みたいに白い顔が、あっという間に真っ赤に染まる。その物凄い変化が何だかとても可愛くて、オレは上級をぎゅっと抱き締めた。
 体温の低い上級だけど、こうして抱きつけばほんのりと温かい。
「あのね、上級」
「…………何だ」
 少し警戒してる感じの声も可愛くて、オレは上級の月光色の髪の毛に頬をすり寄せる。
「大好き」
 正直に、思った通りの事を口にしただけなのに、何でか知らないけれど上級は「な…っ」と言葉に詰まってしまった。何だか、ますます肌が赤くなった気がするけど、気のせい…かな。
「…また、こういう事してもいい?」
 さらさらとして気持ち良い上級の髪に頬を押し当てながら聞くと、上級は少し間を置いた後で、そっとオレを抱き返してくれた。
「…構わん」
「本当?」
「ただし。…他の者達とはしないと、約束出来るなら、だ」
 出来るか? と真面目な声で聞いてくる上級に、オレはうん、と何の躊躇もなく頷いた。
「しないよ、絶対」
 だって、オレがこういう事をしたいと思うのは、上級だけだから。
 そんなオレの言葉に、ほんのりと桜色に染まってた上級の耳がますます赤く染まって見えたのは。
 多分絶対、見間違いなんかじゃない。

END
戻る
無断転写禁止